■ 「橋名板」を観賞するためだけに都内をめぐる
橋についている「橋名板」がおもしろいです。
東京23区以外は興味がないので東京23区内だけに限定していますが、「橋名板」を観賞するためだけに、かれこれ300を超える数の橋を巡っています。
まずは、さまざまな「橋名板」をみてみましょう。
ごく一部の「橋名板」を適当に示しましたが、本当にさまざまでおもしろいです。
■ 「橋名板」とはなにか
いきなり「みなさんお馴染みのあの『橋名板』ですが……」みたいに始まってしまいましたが、多くのかたがご存知ではないと思うので、「橋名板」の説明をしましょう。
「橋名板」とは、橋の名称を表している板状のものです。そのままですね。
おおむね金属でできており、多くは親柱や欄干に「漢字」「ひらがな」それぞれの記述で橋の名称を明示しています。ひらがなの記述もあるので、漢字が読めないような ばかなわたくしでも安心(「俎橋」(まないたばし)とか「皀樹橋」(さいかちばし)とか、マジで読めない漢字の橋だと助かる)。
「橋名板」の取り付け方にレギュレーションのようなものはなさそうで、漢字しかない橋や、ひらがなしかない橋、はたまた「橋名板」の位置に河川の名称や架橋年月の銘板を取り付けている橋もあります。多くの橋を鑑賞するなかで、レギュレーションのようなものに気づけませんでした。
なお、親柱などの石柱に橋の名前が直接彫られていたりするものもあり、これらは板状とはいえませんが、わたくしは「橋名板」として扱っています。
日本の道路の原点である「日本橋」の「橋名板」はこうなっています。
このように、ひらがなで書く場合に「にほんはし」と濁点を外している場合があり、これは「濁りのない川でありますように(=氾濫や洪水がなく穏やかであるように)」という願いが込められているそうです。
■ 「橋名板」を分類してみる
さまざまな「橋名板」を大きく分類するとなると、その材質に着目することでわけられそうです。
すなわち、金属っぽいもの、石柱とかを直接彫っているもの、どれにも該当しないもの、これら3パターンに分類できると思います。“3”に分けるのがよいとなんかの本で見たので、わたくしは「橋名板」を「金属系」「彫刻系」「その他」の3パターンに分類して鑑賞しています。
「金属系」の一部です。現時点(347橋)では、全体のおよそ7割くらいが「金属系」に該当します。
これぞ「橋名板」という感じ。しっかりと橋の名称を伝えていますね。安心感と重厚さ、字体の違いも解りやすいです。
わたくしは「これぞ」と思うのですが、初見の人からすると「ふ〜ん」といったところでしょうか。
「彫刻系」の一部です。現時点(347橋)では、全体のおよそ3割くらいが「彫刻系」に該当します。
板状のものだったりそうでもなかったり、彫刻自体の意匠もバラエティに富んでいます。視認性よりも芸術性にパラメーターを振っている感があります。
わたくしは「芸術性重視だな」と思うのですが、初見の人からすると「ふ〜ん」といったところでしょうか。
「その他」の一部です。「金属系」でも「彫刻系」でもないと思われるもので、ごくわずかを「その他」としています。
「こんな橋名板ありなの?」と、そのアウトローな手法にわたくしは驚嘆します。「橋名板」にはレギュレーションもなにもなさそうなので、アウトローとかはないんでしょうけど。
わたくしは「アウトローだな」と思うのですが、初見の人からすると「ふ〜ん」といったところでしょうか。
■ 伝われ! 「橋名板」のおもしろさ
さて、「橋名板」のおもしろさをがんばって伝えてみて、初見の人の「ふ〜ん」を「言われてみれば確かに……!」に変えていこうと思います。
わたくしが「橋名板っておもしろいな」と思う理由について、次の2点があるのではないかと考えました。
1点目。「橋名板」により、名前と実体が一体化すること。
世界のあらゆるものには名前がありますが、多くの場合、名前と実体は分離しています。
わたくしの名前は「松岡」ですが、わたくしのカラダのどこにも「松岡」とは書いておらず、わたくしのフルネームが書かれており公的な身分証である「運転免許証」の名前は、「運転免許証」です。
おおむね名前は実体と分離し、世界において「物体をなんと呼称するか」を形而上で便宜的に定義しているにすぎません。実体に名前は書かれないのがふつうなのです。
そこにあって、橋の名前を広く世界に伝える「橋名板」は、名前と実体が密着している稀有な例であるとわたくしは思うのです。
この橋は「日本橋」という名前であり、「日本橋」と直接的に書かれている。それを「橋名板」が実現している。
すごくおもしろいと思いませんか。思いませんか? 思いますよね。思うよね、そうですよね。そうそう。
2点目。「橋名板」は、意匠がさまざまであること。
1点目で書いたとおり、「橋名板」の目的が名前を世界に広く伝えるためだけであれば、視認性の高い印刷書体でそれを書けばよい。しかし実際はそうではありません。いままで見てきたとおり、いろいろな意匠や字体で橋の名前は書かれ、視認性の高い印刷書体(いわゆるフォントのもの)のほうが少数派といえそうです。地元小学生揮毫のものや、行書体のものすらあります。
これは、交差点の信号機等につけられていて似たような目的をもつ「交差点名標識」と比較すると、その差が解りやすいです。
物体に商業価値をもたせる場合、例えば食品パッケージや企業ロゴなどであれば、その名前の書き方にデザインを求めることに理解ができます。消費者に手に取ってもらう、良好なイメージをもってもらう。そのためには名前の書き方に趣向を凝らす必要性がありそうです。とくに「商品」は名前と実体が密着しているので、そのデザインは重要性を帯びます。
そこにあって橋名板。橋は道の延長なので通るだけです。だいたいの人が橋の名前に意識は向かないでしょう。「おっ、こりゃいいデザインのロゴだな、いっちょ渡ってみるか」、こうはなりませんよね。
橋々(はしばし)によって意匠の異なるものの、その目的や有用性が不明、つまり「無意味」であるところが、「橋名板」のおもしろいところです。おもしろいですよね。おもしろくない? そんなことはないはず。おもしろいはず。
これら2点に心動かされたわたくしは「橋名板」のおもしろさに気づき、たくさん見てみたいから東京23区の橋を300以上渡ってみたのです。
では、東京23区の「橋名板」で、わたくしがとくに気になったものを見てみましょう。
■ 「橋名板」あれこれ
勝鬨橋、意外と地味。
「勝鬨橋」は有名な橋だと思うのですが、「橋名板」はちんまりしていました。橋の知名度と「橋名板」のデザイン性は、必ずしも比例しないようです。
逆に、知らない橋の「橋名板」のテンションがすごいと笑ってしまいます。
おうぎ形がパカーン。「しん、かめじまばし〜」。
もはや「板」でない。
足立区の最果てなのにめっちゃ光ってる。
シースルーがあるとは予想外。
知らない橋なのに、自己主張の激しい「橋名板」たち。たくさんの橋をめぐってこういった意匠のものに出会えると、本当にうれしいし楽しいです。
また、川のある区間において、意匠を統一している場合もあります。
統率がとれていると美しくはあるのですが、わたくしとしては「いろいろな意匠に出会いたい」と思っているので、すこし期待はずれでもあります。
さらには、「橋名は解るけど、ちょっとこれはどうなんだろう…」というものもあります。
字、汚くない?
ふつう ここまでバッキバキになる?
とりあえずでかいテプラを貼ったのかな?
みんな違って、みんなおもしろい。感嘆とツッコミの連続が、この「橋名板」鑑賞にはあります。
名前と実体が密着しているだけでも特異であり、利用者への訴求力を持つ必要のない意匠にここまでの違いがある。そしてのその意匠の違いは、橋の知名度からは分離している。
これが「橋名板」のおもしろさなのです。いや〜おもしろいですよね。おもしろくない? そんなことはないはず。おもしろいはず。いい加減おもしろがってほしい。
■ まだ見ぬ「橋名板」たちよ
こんな具合で東京23区内に存在する300以上の「橋名板」を観賞してきましたが、それでもまだ東京23区に架かる橋全体からすれば一部です。半分は見ることができたでしょうか、解りません。まだ見ぬ「橋名板」はたくさんあり、さらにいえば、一度通った川に新しく架けられた橋や、観賞後に架け替えられた橋もあります。
「おれ、東京23区の『橋名板』をぜんぶ見たことあるんだぜ」とナゾのマウントをとれるときがくるまで、わたくしは公共交通機関とレンタサイクルと徒歩で、東京23区内に存在する橋をまわり続けるのです。
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当サイトの橋名板カテゴリーでは、訪問した橋名板とその位置を、1ページ1橋で淡白に紹介しております。気が向いたタイミングで更新中。