東京についていま以上に知りたいし都市計画とかも大好物のわたくしですから、手に取るのは自然です。
大きくは、二度の災厄(関東大震災と第二次世界大戦)に際して立案された東京の都市計画の顛末について書かれています。だいたい高度経済成長のころまで。
後藤新平さんや石川栄耀さんなどが「東京が世界に名だたる都市として復興するにはかくあるべき」と考案した東京の立派な都市計画が、どんどんショボくなってゆくようすが、手に取るように解ります。都市計画の実現に非協力な官民およびGHQのかたがたと、緊縮される財政。もう本当に、東京の街はかなしくなるくらいにショボく出来上がっていったのです。
両氏が思い描いたとおりに東京の街が成立していたら、果たして日本はどうなっていたのか。
とくに石川栄耀さんは、東京の人口を抑制したうえで関東の各地に衛星都市を建設する計画を立てていたので、これが実現していればいまほどの地域間格差はなかったかも解りません。日本全体にほどよい人口の地方都市があり、その間を高速鉄道や高速道路が結ぶ国土。それは理想的な都市国家と言えるでしょう。
この本で解ることは、稠密化しごちゃごちゃした東京に「都市計画はなかった」のではなく、「都市計画はあったが、ほんの一部しか実現されなかった」こと。
両氏の都市計画は縮小に縮小を重ね、ごく一部が亡霊のように点々と実現されています。浜町公園や大塚駅前広場、播磨坂の環状3号線など、復興計画の実現された箇所がゆったりとした都市空間になっているのをみると、それが実現されずにごちゃごちゃしたままの街並みとなっているのは非常にもったいなく感じます。このごちゃごちゃした街並みは、やがて発生するかもしれない巨大な災害への大きなリスクとなってしまうでしょう。
東日本大震災では物理的な破壊はほとんどなかった交通機関でしたが、混雑や混乱は色濃く残りました。これも、実現されなかった東京の都市計画に遠因があると思います。
いっぽう、わたくしは東京の稠密な街並み(ショボく出来上がった東京)も愛しています。もし、「キレイで立派でゆったりした東京」が完成していた場合、制限のない空間での建設が主流となるハズなので、日本の建設技術はいまほどの高水準にはなっていなかったかも解りません。それはちょっとつまらないですね。
「パラレルワールドの東京」を想像できる本書、オススメしないワケがありません。