引越し業をはじめとする運送業界は、人手不足でたいへんそうです。ところが、数年前にいまの家に引越した際に利用した業者は、なかなかサービス精神に溢れていました。
いまの家に引っ越す際にはかなりの数の家具家電を処分したので、持ってくるものはあまりありませんでした。ゆえに、引越し業者もベテラン+新人の2名体制でした。
引越し開始予定時刻になり、業者のおふたりが家にやってきました。
「きょうはわたしと若いののふたりでやりますので。よろしくおねがいします」
そんな感じで軽く挨拶をして、作業が始まりました。
ベテランの業者さんは新人の業者さんに指示を出し、ダンボールをキビキビと運んでいきます。
わたくしはカラダを動かすことに自信がないので、こういったカラダが資本の仕事をされるかたを、本当に尊敬します。カゼもひけないし、当然ケガもできません。一生懸命に引越し作業はしていただきたいですが、ムリはしないでいただきたい。
そんなことを考えていたら、ベテランの業者さんが足を引きずりながら部屋に入ってきました。
「階段を駆け降りたら、足をくじきました…」
えーっ! 新人に指示を出すだけで、まだ何も運んでなかったじゃん…!
「まだ何も運んでなかったんですが…面目ないです」
うん、知ってる。書類を持って家の前に止めているトラックに行っただけだったよね。
いきなり足を負傷した不甲斐なさからか、ベテランの業者さんは新人さんへの指示に声を荒げます。新人さんにとっていい迷惑かも解りません。
「こっちはいいから、その電子レンジをその辺の毛布で包んで!」
新人さんはあたふたしなから電子レンジを包もうと毛布を探します。毛布とは、引越し業者がたくさん持ってきている緩衝用のうす汚ないそれですね。
新人さんはその辺に転がっていた布に手を伸ばし、電子レンジを包み始めました。
いや、それは妻のお気に入りの汚いタオルケットだから違う…。
「あっ、違う」
うん、知ってる。それは妻のお気に入りの汚いタオルケットだから。たしかにその汚いタオルケットと、うす汚ない緩衝用の毛布は似ているけれど。
わたくしは業者さんたちのカラダをいたわり、「ムリはしないでいただきたい」と思いました。
ところがベテランさんは関係ないタイミングで足をくじき、新人さんはこちらの笑いのメンタルに訴えかけるミステイクを繰り出す。ムリはしないでいただきたい、と思ったのにもかかわらず、ふたりがかりでムリに笑わせてきたのです。サービス精神が旺盛すぎます。
引越しは無事に完了し、その後もわたくしがしつこく「そのタオルケットで電子レンジ包もうとしたのはウケたね」と妻に言っていたからか、妻からは代替の購入を要求されました。
あれからだいぶ経ち、代替も汚いタオルケットになってきています。