実家は中華料理屋です。そこで料理を作ったりして働いていた生前の父親は、両利きということもあり、比較的器用であったと思います。
みんな大好き『ペヤングソース焼きそば』を見ると毎回、器用なハズの父親のようすがおかしかったことを思い出します。
休日の昼下がりでした。空腹の父親と小学生のわたくしは『ペヤング』を食べることになりました。
『ペヤング』はひとつしかないので、それを分け合って食べます。そもそも『ペヤング』は「ペア+ヤング」の造語なので、父親はヤングではなかったもののわたくしとの平均年齢に鑑みると、この時点ではかなり正しい食べ方を実現しようとしていたのです。
お湯を沸かし、かやくとソースとふりかけをパッケージから取り出し、かやくを麺にあけ、沸いたお湯を注ぎます。
3分待ち、お湯を流しに捨てます。
「ズルン!」
やってしまいました。フタがずれ、9割がたの麺が流しに落下です。
『ペヤング』あるあるですね。いまはシール式のフタになったので、このような大惨事とも縁遠くなりました。
「うお〜! もったいね〜!」
流しに接していない部分の麺を、父親が手づかみで救出します。
父親は戦前生まれ世代(昭和14年生まれ)なので、こういうことを平気でやります。
救出した麺にソースをかけます。もうひと息で完成です。
「バツン!」
やってしまいました。袋があらぬ方向から破れ、9割がたのソースがテーブルおよび床面にこぼれました。
これは『ペヤング』あるあるではないと思います。こればっかりは父親に対し「なんなんだ」の思いのみでした。麺だけでなくソースまでぶっこぼすとは。
「もうこれでいいか!」
冷蔵庫からウスターソースを取り出し、救出した麺に豪快にかけました。料理人なのに、量とかはもう適当でした。(そういえば「ラーメンにマヨネーズ入れるととんこつラーメンになる」とか適当なこと言ってた)
ふりかけをかけ、曲がりなりにも完成。あんなに正しい食べ方を実現しようとしていたのに、その後のプロセスは0点です。
「ズルル〜! ズルル〜!」
使徒を喰う暴走したエヴァンゲリオンみたいに『ペヤング』を食べる父親。座らずに立ったまま食べてた。器用なハズの父親でしたが、一連の流れを考えると神経系が侵され暴走していたとしか思えません。
そのようすにわたくしも触発され、破竹の勢いで1/3ぐらい食べた記憶があります。立ったまま。
一瞬でなくなった『ペヤング』。しょうもない思い出ですが、なんだかやけに楽しかった思い出です。