小学校低学年の頃、とんでもないガセネタが信憑性を帯びて小さな世間を駆け巡ることがあったと思います。
しかしそれこそが、小学校低学年でもあると思います。
いまでも思い出されるとんでもないガセネタは、「手は砂でキレイになる」という論説。
そんなワケあるかい!
泥遊びをしたり、植物をつかんで走り回ったり、汚いボールを投げたり、とにかく小学校低学年の外遊びは手が汚れます。
手が汚れてしまった場合の事情と懸念される問題を整理すると、以下のとおりとなりましょう。
- 手に濃色の汚れが付着している
- 周囲には手洗い場等が存在しない
- そもそもハンカチ等を所持していない
- この状況を母親などの保護者に目撃されるとお叱りを受ける可能性がある
- おやつ抜きやゲーム禁止などの刑罰が科せられる
課題が山積する中、汚い手と対峙していた友人が何かを思い出したようにしゃがみ込み足元の砂で手をさわさわ〜ってやったあと、大声をあげます。
「おい、見てみろ! 手を砂で洗うと汚れ落ちるぞ!」
砂の色が灰色から白色に近く、また粒子で皮膚をこすれば確かに濃色の汚れは落ち、あるいは目立たなくなります。
でも、砂自体がふつうに汚いだろ。イヌとかネコとかがunkoしてる可能性もあるじゃないか。虫とかも死んでるし。
「ホントだ! キレイになった!」
背後で賛同の声が上がります。
振り返ると友人は砂に手を突っ込んでさわさわ〜ってやり、手を上げ太陽光に晒し恍惚の表情。
「水で洗うとかえって汚れるし、これからは砂で洗おう!」
さらに別の友人が意味不明の経験談とともに、将来の方向性を決定づける宣言。当然、手は砂まみれ。
もうダメだ。ここは狂信者の集団になってしまった。
フランスの学者ギュスターヴ・ル・ボンは、「個人は優秀であっても、集団を形成するとその能力は押し込まれ、冷静な判断ができなくなる」と、19世紀の名著『群集心理』で著しています。100年以上前から、人間は変わっていない。というかそもそも小学校低学年ってばかだし。
「手を砂で洗うとキレイになる」という論説は瞬く間に児童の中を駆け巡り、ほうぼうで実践されていきました。
そして、瞬く間に廃れていきました。みんなふつうに手洗い場で水道水を用いて手を洗い、ハンカチ等で手を拭っています。文明人の振る舞い。
「おい、見てみろ! 手を砂で洗うと汚れ落ちるぞ!」
「ホントだ! キレイになった!」
「水で洗うとかえって汚れるし、砂で洗おう!」
あれはマジでなんだったんだ。全員泥酔状態だった?