「料理とかするんですか」
「いえ、まったくしないです。できないんです」
「えっ、意外ですね…」
まただ。またこのやりとりです。
通算何兆回、このやりとりをしたのでしょうか。
わたくしはほとんど料理はしません。できません。できても『Cook Do』です。『Cook Do』、それを具現化したことは、本当に素晴らしいアイデアと技術だったと思います。
なぜわたくしが料理をする人間に見えるのか、見当がつきません。
「なんとなくそう見えます」「器用そうに見えるから」「食に対する思い入れが強そうです」
すべての理由が理由になっていない。ポジティブな印象をいだかれているのは、喜ぶべきことなのですが。
試しに「シェフ 平均顔」で検索しましたが、やはり納得できません。こんな見た目だったかな……。
「調味料にこだわったりとかしませんか? 出汁のとりかたとか」
「しませんね。『Cook Do』が最高の調味料です」
「いい包丁とか使ってそうですけど」
「『いい包丁』の定義が解りませんが、10年くらい前に東急ハンズで買った包丁を妻が使っています」
「本当に料理しないんですか?」
「はい。料理ができなくても困ることはない世界なので。便利な世の中になりました」
「美味しい料理食べて、『これ作ろう』とか思いそうですけどね…」
「洋服屋さんに行きAとBの服があって、Aの服のほうがオシャレで質がよいとして、『これ作ろう』って思います? 思いませんよね? それと同じです」
「……」
「……」
「毎朝スムージーとか飲んでそうですけどね…」
「朝はだいたいヤマザキパンの菓子パンです。ヤマザキパンの『ホワイトデニッシュショコラ』、美味しいんですよね」
この会話は泥沼です。
わたくしは正直かつ論理的に回答をするのですが、なんだかどんどん性格の悪いそれになってしまうのです。
期待を悪いほうに裏切るうえに、理屈で固めた回答。だいたいわたくしがひとこと多い。5回くらい言葉のキャッチボールしたあたりで会話が重苦しくなります。
「好きな食べ物は、屋台の焼きそばです」
食に対する思い入れのなさを魅せつけ、終了。ゲームセット。