駅を取り巻く事情に興味があるわたくしですから、この本を手に取るのは自然です。
駅のデザインというと、例えば東京駅の赤レンガ駅舎や金沢駅の鼓門といったランドマーク的な「見た目」をイメージしがちですが、本書では駅を利用する人からいかに不便や不安を取り除くか、つまり「問題解決としてのデザイン」に主眼を置いて論理が展開されています。
駅を利用する人の多くが不便や不安を感じている、すなわち毎日一千万人単位の人間が困っているのが実情であり、その根本解決がなされていない状態であるというショッキングな事実が冒頭に述べられ、そこからさまざまな問題解決の手法が紹介されていきます。営団地下鉄のサインシステムやみなとみらい線のトータルデザインなど、興味深いデザイン手法が目白押しでした。
特に興味深かったのが、本書の筆者が携わった営団地下鉄のサインシステムが、民営化し東京メトロになった途端に「解りづらく」なった点です。
東京メトロになり「ちょっとオシャレになったのかな」程度にしかわたくしは感じなかったのですが、営団地下鉄時代のサインシステムと並べて比較すると明らかに「劣化」していました。文字は小さくなり、コーポレートカラーの藍色が視認性を下げ、案内表示に広告が出たことにより情報の重要性が散漫になっていて、「あ〜、確かにこれは解りづらいわ」と感心しきりでした。
地下鉄は外界が見えず方向感覚もマヒしてしまうので、サインシステムは大切であるのに、これではまた困ってしまいます。東京メトロには再考いただきたいところです。
また、「駅のデザイン」とは突き詰めれば送り手と受け手のコミュニケーションである点も興味深かったです。
「駅のデザイン」という少々マニアックな視点ではあるのですが、コミュニケーション論のエッセンスも本書にはちりばめられおり、知識欲が揺さぶられました。コミュニケーションの6因子「情報の送り手」「情報の受け手」「コンテクスト(背景)」「コンタクト(接触)」「メッセージ(言葉)」「コード(意味)」。コミュニケーションとはこの6つの因子で成立している。これはテストに出るし、人生レベルで重要な知識じゃないか。
本書を読めば、鉄道に興味がある人もない人も、新たな視点で「駅」を利用することができます。本書もオススメです。