取引先の偉い人に飲みに誘われました。
「駅から少し行ったところに最高の串焼き屋があるのでそこに行きましょう」と言われ、適度に残業を切り上げ最高の串焼き屋に向かいます。
「最高の串焼き屋で、にんにくダレがめちゃくちゃ美味いんです。あした休みですから、多少にんにくくさくなっても大丈夫ですよね(笑)」
そんな会話をしながら、最高の串焼き屋に入店。
「おまかせ盛りを、にんにくダレでください」
飲み物といっしょに注文し、ほどなくやってくるにんにくダレのおまかせ盛り。たしかに美味いし、最高の串焼き屋です。
取引先の偉い人だからではなく、純粋にこういう「いい居酒屋」を知っている人というのは尊敬に値します。
この最高の串焼き屋は、ちょうどいい店内の広さとちょうどいいメニューのラインナップ、そしてちょうどいい金額を実現しているのに「最高に美味い」。理想的なお店といえるでしょう。
友人でも同僚でも、「いい居酒屋」を知っている人はどうやって見つけるているのか不思議です。
わたくしの場合は、自宅の近所の喫茶店とかにお気に入りのお店はありますが、居酒屋はまったく知りません。
「たしかに最高の串焼き屋さんですね。ここのほかに最高のお店ってご存知なんですか?」
わたくしは自然な流れで取引先の偉い人に尋ねました。
「ほかですか! あっ、オススメできるのは駅に行く途中にあるうどん屋ですね。駅に行く途中なので、帰りがけに見てみましょうか」
お開きの時間になり、偉い人は素早くお会計を済ましてくれました。なんかすいません。
他人のおカネでの飲食となり、より最高の串焼き屋になりました。
「この角にあるんですよ。コシのあるうどんで、讃岐うどんなんですかね。とにかくうどんとお酒が美味しくて最高なんです」
偉い人もベタ褒めで、期待が高まります。
「この角を曲がって……あれ?」
「『とんかつ・お酒』って買いてありますね……」
店頭には「うどん」を隠すように、「とんかつ」と書いてあります。
「うどん、やめちゃったんですかね……、ホラ、あの、とんかつも美味しいかもしれないですよ……?」
取引先の偉い人はすこしうつむき、わたくしのフォローの発言を無視しじっと押し黙るばかり。