哲学に興味があるわたくしであり、しかもそれに反しているということが書かれているであろう本書ですから、手に取るのは自然です。
本書は「哲学的な思考」に対して反旗をひるがえすような内容ではなく、ニーチェ以降がおこなってきた「既存哲学の批判」を「反哲学」と定義し、それまでの哲学とそれからの哲学の違いはなにかを論じている内容です。
現代に至るまでの哲学史を木田先生の語り口で展開し、哲学者ごとの思想の違いを紹介しているので、『反哲学入門』というより『哲学史入門』と考えたほうが本書の内容にあっていると思います。そこは読む前に本書を手に取った際の期待とは異なっていましたが、内容そのものは興味深いものでした。
「哲学者」はどうでもいいことの理屈をこねこねする(=哲学)ような人間だという一般的な認識は正しいと思うのですが、その『哲学』というのにもやはり系統や系譜みたいなものがあり、ニーチェ以降の哲学者は既存の哲学をぶっ壊し、あたらしい思想形態を始めていたということを本書で初めて知りました。
たしかに既存の哲学とはまったく異なる考えかたなので(本質主義から実存主義へ)、それらを十把一絡げに『哲学』としてしまうのは乱暴だと思います。このへん、どんな分野でも論争が起きそうな内容です(アグネスチャンさんから松田聖子さんからおニャン子クラブから広末涼子からモーニング娘。からAKB系から地下系まで、すべておなじ『アイドル』として同列に扱うのは乱暴でしょ?)。
『哲学』とは、つきつめれば「在る」「無い」の世界で、「在るとはなにか」をこねこね論じる学問です。
その「在る」のスタートとして「形而上的(超自然的)」なものと、「つくられている/なりいでている」もの、どちらをメインに据えて哲学をやっていくか。これは人によってかなり考え方が異なると思います。
日本人には「八百万の神」という考え方が根底にあるので、やはり後者の考え方のほうがしっくりくるのだと思います。唯一絶対神というより、そのあたりの神社に在る(居る)ユビキタスな神さま。
そうなると結局、既存哲学の批判、つまり『反哲学』のほうが解りやすいのでしょう。日本人は『反哲学』をベースにして哲学するのが性に合っているといえます。
「神は死んだ」「我思う故に我あり」といった有名な言葉の出てきた背景やその真意なども本書で知ることができ、哲学史の「いいところ」が学べてオススメです。哲学の本流は、たぶんこの一冊でまるっとおさえられるのでしょう。
ただ、木田先生の口述を文章化しているようなので、一文が長かったり主述関係が読みづらい箇所もありました(わたくしの読解力の問題)。論述というより、講義を受ける感覚で読むと吉です。