【本】#061 哲学の謎 / 野矢 茂樹

哲学の謎
哲学の謎

哲学ってナゾだよなあと常に考えているわたくしですので、この本を手に取るのは自然です。

本書の「はじめに」で、もうやられてしまいました。

(前略)一本の木が見える。私は、本当にそこにあるとおりの木の姿を見ているのか。(中略)私はある人に話しかけられる。しかし、私はその人の話した言葉の意味を正しく理解しているのだろうか。(後略)

これなんです。これなんですよ。
わたくしが幼少からずっと感じていた、世界の違和感。わたくしが見ていること、聞いていること、感じていること、それらすべては他人と同じものなのか、それが解らない。ぜったいに、永久に、解らない。みんなそれぞれが解らないはずなのに、世界や社会は成立しているし毎日が問題なく過ぎてゆく。
それがたまらなく不思議で、不可解で、怖かった。

わたくしは幼少(たぶん幼稚園生くらい)のころ、この違和感をうまく言語化できずにいたなかで、何とかがんばって「自分と他人が同じ観点を共有できているか解らないことが不安である」旨を親兄弟に打ち明けたのですが、「考えすぎじゃない?」で一蹴されたことがありました。幼稚園生なりにがんばったのですが、いまでも口惜しいです。
この違和感をもっと深く考え続けていれば、わたくしは哲学者になれたかもしれない。

哲学とはすなわち、「世界や社会の前提を疑い、考えられる範囲の答えを出し、あるいは『答えは出ない』という答えを出し、その共有を図る」行為。
本書と出会うことで、わたくしが幼少期に無意識に実践していた「哲学」に対する「答え」、すなわち「ナゾ」であるという「答え」が、ここにあることを知りました。

意味とは、色とは、言葉とは、存在とは、記憶とは、時間とは、規範とは、行為とは。世界や社会の前提となっているそれらはすべて、「ナゾ」なのです。論理的に深く深く考えると、結局「ナゾ」に到達してしまう、という点が非常におもしろいです。
39歳のいまでも当然、どれだけ考えてもわたくしの前提と世界や社会の一致性を見出すことはできません。しかしながら、「一致性は見出せないものなのだな、これは哲学の立場においてナゾなんだな」という答えが、本書から解りました。何となくスッキリした印象。

この文章を読んでくださって、多少なりともシンパシーを感じた方には、本書はオススメです。「よく解らんな」であれば「そうですか」としかいえません。それが哲学。

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