男子高校生のiPhoneのフォルダ名が「ガム」だった。
朝の武蔵野線は非常に混雑している。座席の前の吊り革にすらつかまることができない場合、座席も吊り革も手すりも遠い、いわゆる「野良エリア」に立たざるを得ない。
その際、前に立っている男子高校生のiPhone画面がちょっと見えてしまい、彼は冒頭のとおり「ガム」という名のフォルダを開いたところだったのだ。iPhoneを持つ手で遮られフォルダ内のアプリは見えなかったが、「ガム」の文字は武蔵野線に差し込む冬特有の低い位置の暁光のごとく、燦然と輝いていた。
直後、そのフォルダの中のアプリだったかどうかは定かではないが、男子高校生はポケモンのようなゲームをプレイし始めた。
なるほど、「ガム」は「ゲーム」の意味か。「gum」「game」、似ている。
おそらく、お母さんにiPhone画面を見られるなどした際に「ゲーム」と書いてあるとうるさいから、カモフラージュに「ガム」としている、そんな想像をした。そこはかとなく男子高校生である。「ガム」て。
いや、もしかしたら「ガム」は「ゴム」のカモフラージュかもしれない。
その文脈で、フォルダの中がマッチングアプリやラブホとかのブックマークで満載だったらどうしよう。お母さん、泣かないで。
わたくしの妄想を載せ、武蔵野線が轟音をあげ見沼田んぼを駆け抜ける。